講演者
講演者
(発表順)
カオスの縁を超えて
~カオスの縁とその付近における神経回路網の信号増幅および信号積分~
ランダムな結合によって細胞間の信号を伝達をする神経回路網は、その結合の強度に応じて、静的な状態(固定点領域)から動的な状態(カオス領域)へ相転移を起こすことが知られている。そのような転移点、「カオスの縁」、付近においては信号の増幅率が高く回路網の時定数が長いという情報表現に関して有益な性質が報告されている。しかし、従来から研究が進んでいる固定点領域では、結合強度の値が転移点での値から離れるに従って急速にこれらの性質が失われるために、パラメータの微調整が必要不可欠であった。本研究では神経活動の観測の精度が有限であることと、神経細胞の持つ非線形性に関する特定の条件の下で、結合強度の調整が固定点領域よりもカオス領域においてより容易であり、より高精度の情報表現が可能であることを示す。
Name: 上田 昌宏 (Masahiro Ueda)
Affiliation: 大阪大学大学院・生命機能研究科
理化学研究所・生命システム研究センターQBiC
Major: 細胞生物学・生物物理学
細胞の走性行動に学ぶ自発性の階層構造
細胞は分子反応・分子運動の確率性に起因する”ゆらぎ”を内包したシステムである。確率的にはたらく分子を要素として情報処理機能・運動機能などを有する分子システムが自律的に組織化され,変動する環境に対して巧みに適応できる.本セミナーでは,分子レベルから細胞レベルへと階層を登りながら,各階層にみられる機能発現とゆらぎの関係について議論する.「ゆらぐ分子による確率的シグナル伝達」,「分子ネットワークの自己組織化による自発シグナル生成」,「細胞運動のゆらぎを利用した環境変動への柔軟な応答」等、ゆらぎの寄与が顕著な生命現象を取り上げ,その現象の動的な振る舞いを実験と理論の両面から明らかにする.ゆらぎは細胞の安定性を乱す邪魔者ではなく,むしろ細胞の環境適応性を高めるのに役立っている可能性について議論したい.
Name: 森下 喜弘 (Yoshihiro Morishita)
Affiliation: (独)理化学研究所発生再生科学総合研究センター
Major: 数理工学、発生生物、数理生物
器官形態形成における空間情報のコーディング
〜情報幾何的解釈〜
目的の形態やパターニングを実現するためには、細胞は発生組織中において自身の位置に応じて適切な応答をしなければならない。しかし、細胞に与えられる空間情報は化学情報へと変換されてから伝えられるため揺らぎを伴う。 曖昧な情報源を用いてなるべく正確に情報を伝達するためにはどうすればよいか、 そして曖昧な情報からなるべく正確に情報を読み取るにはどうすればよいか、というコーディングデザインについて数学的(情報幾何的)に定式化し、理論上の 最適デザインを導出する。また解析結果がどのように実際の生命現象理解に役立つのかを具体例を挙げながら議論したい。
Name: 岡田 康志 (Yasushi Okada)
Affiliation: (独)理化学研究所生命システム研究センター
Major: 細胞生物学・生物物理学
分子モーターはどうして細胞内で迷わないのか?
発生においては、各細胞は個体/器官の中でどこに自分がいるかという 位置情報に従った応答をすることで、形態形成・器官形成が行われる。 多くのケースでは、情報伝達因子(モルフォジェン)の濃度勾配という形で 位置情報が生成されていると考えられている。 では、細胞の中での位置情報はどのように生成され、表現され、受容 されているのだろうか。たとえば、神経細胞は多数の突起を持ち、通常は そのうちの1本が軸索として出力線維としての機能を持ち、それ以外の 多数の突起は樹状突起として入力線維として機能する。このとき、細胞体 から出発して軸索末端までタンパク質を輸送する分子モーターは、多数 ある突起の中から1本しかない軸索をどのようにしてみつけるのだろうか。 私たちは、軸索へ向かう分子モーターは、ランダムな試行錯誤の末に 軸索へと到達するのではなく、何らかのシグナルによって迷うことなく 軸索へ誘導されるのだと考えている。本講演では、これまでに私たちが 得ているデータを基にして、その機構について議論したい。
細胞内シグナル伝達の情報処理
細胞内シグナル伝達は細胞の運命決定や代謝などさまざまな生命現象 を制御しています。その細胞内シグナル伝達経路の情報処理の特徴を周波数応答 やシャノンの情報理論の枠組みから解析した結果を中心に議論します。
ノイジーな細胞内反応による動的な情報処理
微小環境である細胞内で生じる化学反応は必然的に確率的な特性を有する。しかしながら、確率的な化学反応の組み合せで構成される細胞のシステム全体は、比較的安定でかつ適応的に環境変動に対して振る舞う。素過程の確率性に大きく影響されずシステムを構成するためには、システムのダイナミクスの中に何らか、細胞内システムに関連のある情報とそうでないノイズとをうまく切り分け処理する情報処理機構が存在しなければならない。しかしながら、複雑な構造を有する細胞内反応ネットワークのどの部分がこのような情報処理に寄与するのか、その関連は明らかではない。本発表では、ベイズ推定の枠組みを活用することによって、ノイズの中での情報処理に関連するダイナミクス(ノイズ励起的なダイナミクス)を数理的に予測する。その結果を細胞内ネットワークと関連されることにより、比較的簡単なネットワークによってノイズの中での情報処理が可能であることを示す。